北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問
一色賢司

リステリアは、わが国でも要注意です。

図1のように、米国でデリミートと呼ばれる食肉製品による食中毒が発生しました。10人目の死亡者が報告されています。原因菌は、リステリア・モノサイトゲネス(Lm)です。原因食品は、Boar’s Head社がバージニア州の工場で製造したレバーソーセージです。患者は、5月29日から8月16日まで59人発生しました。全員、入院し治療を受けましたが、10人が死に至っています。

Boar’s Head社は7月25日になって自主回収を開始しています。国民への食中毒発生の報告と関連製品の回収が遅すぎたこと、さらには監督官庁である農務省食品安全検査局USDA-FSISの対応の遅れをマスコミが批判しています。図2のようにニーヨークタイムスは、FSISが当該食品加工工場の衛生管理に問題があることを2年も前から気付いていたと報告しています。

わが国でもリステリア症を発症している人はいます。国立感染症研究所は、100万人当たり約1,4人が発症していると推定しています。Lmは、図3のように広く環境に分布しており、わが国の食品からも検出されることがあります。

わが国の食中毒統計は、医師の届出に基づく受け身的調査を集約しています。これまでに、厚生省がチーズによる食中毒の原因菌をLmであると認めた例が知られています。福岡市でLm食中毒を起こし、原因食品はオードブルとしての食肉製品であったとの報告があります。

わが国でLm食中毒の報告が少ない理由として、発症までの潜伏期が長く(図3)、医師がLm食中毒と診断することが困難になっていることが考えられます。患者からLmが検出されたとしても、潜伏時間が長いことなどから感染原因や原因食品の特定も困難になっていることが推定されます。

先進国では、Lmの調査は積極的に行われ、検査も遺伝子を利用した感度や精度の高い手法も利用して行われています。わが国のLm対策は、後手を踏んでしまうのではないかと心配されます。