食物アレルギーにおける交差反応

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問
一色賢司

2026年4月13日更新

 私たちのまわりには、食物、花粉、ダニなど多くのアレルギーの原因となる物質、アレルゲン(抗原)が存在します。このアレルゲンが体の中に入り異物とみなすと、排除しようとする免疫機能がはたらき、IgE抗体という物質が作られます。この状態を感作と呼んでいます。
 アレルギー感作(かんさ)とは、体内に侵入した異物(アレルゲン)を免疫系が「敵」と認識し、IgE抗体という物質を作って、次に侵入した際にアレルギー反応を起こせる準備状態にすることです。この段階では症状は出ませんが、感作が成立した後に、再度アレルゲンが体内に入ると、IgE抗体が反応し、マスト細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、アレルギー症状が引き起こされます。
 構造が似ているアレルゲン同士では、一方の感作により、もう一方にもアレルギー反応が誘発されることがあります。これを「交差反応」と呼んでいます。表1,2のような例が知られています。食物アレルギー対策では、交差反応にも十分に配慮することが必要です。

 表1 食物以外の抗原感作による食物アレルギーの例

病態名感作誘発
花粉―食物アレルギー症候群花粉生果物・野菜
同上カバノキ科花粉大豆(豆乳)
ラテックスーフルーツ症 候群ラッテクスアボガド、栗、 バナナ、キウイフ ルー`
α―Galアレルギーマダニ咬傷牛肉・豚肉
PGAアレルギークラゲ刺傷納豆
Bird-eggs症候群鳥類(羽毛・糞)鶏肉・鶏卵
Pork-cat症候群ネコ豚肉・牛肉・羊肉
加水分解小麦によるアレルギー加水分解小麦 含有石鹸小麦

出典:海老澤、食物アレルギー、モダンメディア 71, 73-82 (2025)

表2 食物以外のアレルゲンに由来する食物関連アレルギー

名称・原因物質感作誘発原因アレルゲン
コチニール色素化粧品コチニール (カルミン色素)夾雑タンパク質
アニサキス アレルギーアニサキス魚介類アニサキス
パンケーキ症候群ダニお好み焼き、 ホットケーキなどダニ

出典:海老澤、食物アレルギー、モダンメディア 71, 73-82 (2025)

1)花粉・食物アレルギー症候群 (Pollen Food Allergy Syndrome, PFAS)

 花粉アレルゲンと果物や野菜など、食物のアレルゲンが交差抗原性を有することにより、食物アレルギー症状を呈する場合があります。これらのアレルゲンは消化や加熱に弱く、IgE抗体を介した口腔粘膜を主体とする即時型アレルギー症状 (OAS)を呈します。豆乳などでは全身症状を呈することもあります。
 カバノキ科(ハンノキ、シラカバなど)の花粉とバラ科果物(リンゴ、モモ、サクランボなど)・やマメ科(主に豆乳)の食品は、交差反応を起こし易いようです。イネ科(カモガヤなど)・キク科(ブタクサなど)花粉とウリ科果物(メロン、スイカなど)、キク科(ヨモギ)花粉とセリ科野菜(セロリ、ニンジンなど)も交差反応を起こすことがあることが報告されています。

2)ラテックスーフルーツ症候群

 ラテックス(天然ゴム)アレルゲンと果物や野菜アレルゲンが交差反応し、アナフイラキシーを含む即時型症状やOAS(口腔アレルギー症候群)を呈する場合があります。リスクの高い食品としてアボカド、クリ、バナナ、キウイフルーツなどが知られています。

3)遅発性IgE依存性食物アレルギー

(1) 獣肉アレルギー(α-galアレルギー)

 糖鎖であるgalactose-α-1,3-galactose(α-gal)が原因抗原として関与する場合、牛肉を中心にα-galを豊富に含むウシやブタなどの四つ足の哺乳類の肉を摂取した数時間~半日後に症状が誘発されることがあります。 唾液成分にα-galを含むマダニ咬傷により感作されることで、体内にα-galを認識する特異的IgE抗体が産生されます。

(2) 納豆アレルギー(PGAア レルギー)

 納豆摂取後に症状が誘発されますが、大豆や納豆菌由来ではなく、納豆の粘稠物質であるpoly γ―glutamic acid(PGA)が 原因抗原です。PGAは分子量が大きいため吸収されにくく、腸管内で緩徐に分解され吸収されるため症状の誘発までに数時間~半日を要すると考えられています。発症者にはサーファーなどが多く、海でクラゲにくり返し刺されることでPGAに感作されると報告されています。

(3) その他の獣肉アレルギー(アルブミンアレルギー)

 ペット等の血清アルブミンに感作され、獣肉アレルギーを発症することがあります。bird-egg syndromeは、長期に鳥を飼育していた人が、羽毛や糞などに含まれる血清アルブミンに経気道的に感作し、鶏肉や卵摂取により症状が出現する症例も報告されています。類似したpork-cat syndromeでは、ネコ血清アルブミンに感作されることにより、豚・牛・羊等の肉類摂取によリアレルギー反応が引き起こされます。肉類の摂取30~45分後に症状が出現します。

(4) 化粧品使用に関連した食物アレルギー

 化粧品、ボデイクリーム、ヘアケア製品等に含まれる食物由来成分や食物と交差抗原性を有するタンパク成分に経皮感作されることにより、食物アレルギーを発症することがあります。
わが国では、加水分解小麦を含有していた「(旧)茶のしずく石鹸」の使用者に、小麦アレルギーが発生した事例が2011年に社会問題になりました。表2に示すエンジムシ由来のコチニール色素によるアレルギー症例もありました。原因物質は色素の精製が不十分で、タンパク質でした。

(5) アニサキスアレルギー

 寄生虫としてのアニサキスではなく、魚アレルギーとして誤解されることが多いことが確認されています。魚介に寄生しているアニサキスによるアレルギーも、成人ではよく遭遇します。魚介類を生で食する人に多く発症し、病歴に加えて魚介類のIgE抗体が陰性である場合に、アニサキスに対するIgE抗体を調べて陽性であることにより確定されています。

(6) 経ロダニアナフイラキシー(パンケーキ症候群)

 お好み焼きやホットケーキを摂取した後に全身性アレルギー症状を来す場合があります。食材の小麦などに対するアレルギーではなく、その食品に混入しているダニの経口摂取が原因となることがあります。家庭用のお好み焼き粉、ケーキミックス粉などを開封後、常温で放置し、粉中でダニが繁殖した場合、これを経口摂取した際にダニヘのアレルギーによリアナフイラキシーを起こす場合もあります。経ロダニアナフイラキシーもしくはパンケーキ症候群と呼ばれています。

(7) 調理業従事者における職業性食物アレルギー


 調理師や食物を扱う業務に従事している人は、扱っている食物に感作され、食物アレルギーを発症することがあります。経気道感作と手湿疹を介した経皮感作があります。