食品安全も品質管理も整理整頓から

 北海道大学名誉教授・日本食品分析センター顧問
一色賢司
ifia展示会での講演抄録
2026年5月29日 於:東京ビックサイト

2026年6月2日更新

「物事は放っておくと、乱雑・無秩序・複雑な方向に向かう」と、エントロピー増大の法則は示しています。食品分野でも、放っておくと、色々な問題が発生します。

図1のように、自宅の庭の管理が悪く、その庭の植物を食べて食中毒を起こした例もあります。札幌の例では、死に至っています。

問題発生の未然防止、拡大防止、再発防止には、「整理整頓」が有効です。整理整頓の反対の意味を持つ言葉には、「乱雑」「無秩序」「混沌(カオス)」などがあります。食品の安全性確保や品質保証でも、「整理整頓」を大切にする必要があります。

フードチェーンでの「整理整頓」が軽視されると、多くの人々に、迷惑をかけることになります。乱雑で不潔な食品取扱い施設は、食品衛生上の迷惑施設でもあります。

食べてきた物

人類は、従属栄養生物であり、食べないと生きていけません。ご先祖の人類も弱い生物でしたが、知恵を働かせて食べ続けてきました。図2は、人類の食料調達の歴史を示しています。

人類は、生物の可食部を選抜し、そのままでは食べられない部位も、調理加工して食べてきました。人類は約百万年前から火を使っていたようです。火を使い、熱を使うと、食べ物を増やし、味を変え、消化吸収できなかった物も、栄養にすることができるようになりました。 

加熱調理は、有毒なものも可食化できる場合もありました。さらに、有害微生物や寄生虫の活動を阻止し、保存性も増加させました。ご先祖は、食中毒などの失敗から教訓を得て、食生活の「整理整頓」を心掛け、実践するようになりました。食品衛生は、「整理整頓」から始まったとも考えられます。

食品衛生

食品衛生は、食品安全を維持するための手段ですが、改善されながら今日に至っています。「整理・整頓」に続いて、「清掃」、清潔」、「良い習慣・躾(しつけ)」が必要だと認識されています。表1は、5Sと呼ばれている食品衛生の5つの行動を説明したものです。

食品取り扱い施設では、5Sに加えて、報連相(報告、連絡、相談)、3現(現場、現物、現実)、3定(定位、定品、定量)などの活動も行われることもあります。

安全で高品質の食品を消費するためには、フードチェーンのいかなる過程でも、手抜きは許されません。悪意がなくても、人間は、ミスを犯します。 機械は、壊れます。

ミスには、 ①情報の認知・確認ミス、 ②判断・決定ミス、 ③操作・動作ミスなどがあります。再発防止には、検証が必要で、次の状況の点検を行う必要があります。

①無知・不慣れ、②不注意、③コミュニケーション不足、 ④手抜き・省略、⑤聞き違い・勘違い、⑥思い込み、⑦慣例・風景化、他

ミスの再発防止には,ミスの原因の解明と対応策などの情報の共有が必要です。想像力を働かせて、事故を起こさせない仕組みを作り、チームとして改善する必要があります。

食品加工・製造の特徴

人間は従属栄養生物。他の生物を食べている事を忘れがちです。食品の取り扱いは、原材料が生物であるため、多くの困難を伴います。表2は、食品産業と機械産業などの非生物産業の特徴を比較したものです。食品やその原材料、中間製品は変化が起こり易く、微生物による汚染も受け易いという特徴があります。

Codex国際食品規格委員会では、図のように食品衛生の一般原則を改訂しました。第1章の適正衛生規範GHPにより、原材料、環境、食品の取り扱いの整理整頓をはじめとする衛生管理を求めています。第2章では、第1章適正衛生規範GHPでは、ハザードをコントロールできない工程を洗い出し、許容できるリスクとする活動をHACCPとして要求しています(図3)。

わが国の法的要求事項

わが国は、図4のように2018年に①一般衛生管理(Codexの第1章適正衛生規範GHPに相当)に加え、②HACCPに沿った衛生管理の実施を法的要求事項に制定しています。法的な要求を満たすためにも、まず整理整頓を常日頃から心掛ける必要があります。

食品の品質保証・管理でも、整理整頓は大事です。表3のように現在では食品の品質保証は、食品企業の全員で取り組むべき業務と認識されています。担当者だけの作業では、品質を軽視していると見なされる場合もあります。

食品の取り扱いには、勤勉さが不可欠

食品安全上のハザードを完全に排除する「特効薬」はありません。複数のアプローチや技術を科学的に組み合わせることが不可欠です。適切な危害分析と食品安全計画、•プロセス予防管理手法が必要です。衛生予防管理、サプライチェーンの予防管理、適切な衛生ゾーニング、環境モニタリングと是正措置、適正製造規範、その他のコントロールなどの「整理整頓」が不可欠です。

食品のリスク管理は、食品衛生に精通した人材が必要です。大切に育成する必要があります。食品安全検定は、人材育成のお手伝いができることを願っています。

参考文献:

  1. J.L.Kornacki: How Simple Microbiological Truths Provide Insights for Understanding and Solving Practical Problems, Food Safety Magazine, October 21, 2025 
    https://www.food-safety.com/articles/10813-how-simple-microbiological-truths-provide-insights-for-understanding-and-solving-practical-problems
  2. 日経新聞:小林製薬の紅麹問題、管理体制の不備指摘 大阪市報告書、2025年3月19日  
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF175P80X10C25A3000000
  3. 沢野ひとし、ジジイの片づけ、株式会社集英社 集英社、2025年3月25日  ISBN978-4-08-744753-8