CodexのPAL予防的アレルゲン表示
2025年9月24日更新
わが国は2018年に食品衛生法を改正し、HACCPによる食品の衛生的な取り扱いを制度化しました。食物アレルギーの原因となるアレルゲンも、化学的危害要因としてHACCPによる衛生管理が求められています。その上で、食品表示法による表示も必要です1)。
1. わが国の食物アレルギー表示制度
食物アレルギー体質の方やその保護者が、外観で食べない方が良い食品と判断できれば、発症を回避することができます。原材料が加工され、外観だけでは、避けるべき原材料や食品であることに気が付かない場合もあります。わが国では、食物アレルギーの発症を防止するため、2001年に「アレルギーを起こすおそれがある原材料を含む食品の表示制度」を世界に先駆けて開始しました。
対象食品は、容器に入れられ包装された食品です。この制度は、2015年に制定された食品表示法に引き継がれています。
発症した場合の重篤度や発症頻度により表1のように、2つのグループに食品を分けて管理しています。食品表示基準で示された9品目の特定原材料を含む場合には、その旨を表示することが義務化されています。表1の下段には、含有している表示をすることを推奨されている20品目が示されています。
表2には、わが国での食物アレルギーに関する代替表記、コンタミネーション汚染、可能性表示の禁止についての取り扱いを示しています。消費者の食品選択が混乱し、食べる物がないなどの状況を未然に防止するために、「入っているかも」などの可能性表示は禁止されています。「乳を使用した設備で製造しています」などの注意喚起表示は、認められています。
2. 外国の食物アレルギー表示制度
国や地域によって、食物アレルギーの発症状況や食文化が異なります。食品の輸出入時に、受け入れられない食品となってしまう場合もあり、注意を要します。
外国で食品を手にされて、May contain sesames(ゴマを含む可能性があります)などの表示に目が止まった方もおられると思われます。
これは、PAL予防的アレルゲン表示と呼ばれる表示です。わが国では表2のように、PALは認められていません。アレルゲンの混入防止対策を徹底しても混入の可能性を否定できない場合には、次のような注意喚起表示を行うことが望ましいとされています。「本品製造工場では〇〇(特定原材料等の名称)を含む製品を生産しています」
PALを認めている国では、原材料として使用していないアレルゲンが、工程での交差接触などによって意図せずに食品に移行する可能性があることを、伝えるためにPALが使われています。
PALにも、解決すべき課題がありました。「どの程度のリスクがあればPALを表示すべきなのか」について、国際的な合意がないことなどでした。Codexは、PALをより科学的で統一された方法で使用するため、国際ガイドラインを検討し、合意しました2)。
3)CodexのPALの考え方
7月に合意されたCodexのPALに関するガイドラインでは、「念のためPAL」ではなく、「リスクに基くPAL」が採用されています(図1)。
PAL表示の前提条件は、リスク管理の徹底です。原材料の管理、環境の整備、製造スケジュールの管理、ゾーニングや製造ラインの分離、適切な洗浄、モニタリング、従業員教育などによって、交差接触をなくす努力を続けます。
それでも残るリスクを評価し、必要な場合にPALを表示することになります(図1)。アレルゲンを単に「食品の入っている可能性があるか、ないか」だけで判断せずに、安全性に関してどのような意義を持つかを検討することが大切です。
「その食品を食べたときに、どの程度のアレルゲンに曝露されるのか」を考察します。同じ濃度のアレルゲンが含まれていても、一度に食べる量が10gの食品と200gの食品では、体内に入るアレルゲンの総量は異なります。
今回のガイドラインでは、参照用量Reference Dose(RfD)という考え方が採用されています(表3)。参照用量は、ほとんどのアレルギー患者に症状を引き起こさないと考えられる摂取量です。
この参照用量と、「一度に食べる食品の量」を勘案して、PALを使用する必要があるかを判断します。
わが国では世界に先駆けて、特定原材料の表示の必要性を定量基準10 µg/gで判定しています3)。今後は、Codexなどの国際的議論とも整合性を取りながら、アレルゲン表示制度の合理的な運用と改善を続けて行くことになります。
実際には交差接触のリスクがほとんどない食品にも「May contain」と表示されれば、当該食物アレルギーのある人はその食品を避けることになります。その結果、発症せずに食べられる食品の選択肢まで減らしてしまう場合もあります。
我が国は、定量的な食品中のアレルゲンの把握を、その表示制度に取り入れてきました。最近になり、多くの国々もゼロトレーランスから、定量的なリスク管理に移行しようとしています。我が国は、その手本となっています。
食物アレルギー対策を国際的に統一するのは困難なようです。せめて、科学的根拠に基づいたリスクコミュニケーションを国際的にも、国内的にも活性化させたいものです。食物アレルギーに苦しむ人々やそのご家族を減らす努力を忘れないようにして行きたいものです。
参考文献:
1)消費者庁:アレルギー表示について、2026年4月1日、
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_260401_01.pdf
2)Codex: JOINT FAO/WHO FOOD STANDARDS PROGRAMME CODEX ALIMENTARIUS COMMISSION Forty-ninth Session CICG, Geneva, Switzerland 6–10 July 2026 REPORT,
https://www.fao.org/fao-who-codexalimentarius/committees/ committee/related-meetings/en/?committee=CAC (CAC49, report)
3)消費者庁:食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書、令和4年3月
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf





